最近やたらと筆が乗っている私、polarisでございます。何かをしないといけない時、今回は卒論を書かないといけない時ほど何か書かないととブログに逃げて来てしまうもの。
そんな今回は巷で実しやかに囁かれているフッ素フリーのGORE-TEX、いわゆる「ePEメンブレン」「PFCフリー」を謳ったGORE-TEX製品の性能低下について着目していきたいと思います。
PFCフリーの雨具が抱える問題点とは何か、見ていきましょう。
はじめに
GORE-TEXとは

まずGORE-TEXという素材について改めて押さえておきましょう。
GORE-TEXはアメリカのゴア社によって開発された防水性と透湿性を持つ生地のことを指します。生地そのものはGORE-TEXメンブレンと呼ばれアウトドア用品をはじめ一般的なシューズ・バッグなどから極限環境に対応する宇宙服まで様々な分野にて使用されています。
特に近年の登山用品においてはほぼ全てのブランドのフラッグシップモデルにはGORE-TEXメンブレンが採用され、圧倒的なユーザーからの支持を得てきた歴史があります。
mont-bellとは

続いて今回参考にさせていただくモンベルについても触れておきましょう。
mont-bellは75年創業、大阪初の日本のアウトドアブランドです。ユーザーに広く行き渡る製品を作るという理念のもと比較的安価かつ高性能な製品を提供しており、初心者から熟達者までありとあらゆる層に浸透しています。
特に今回の話題で特筆すべきは「製品の具体的な性能を公開している」数少ないブランドであり、話のキーポイントとなってきます。
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先に公開したこちらの記事、たくさんの方に見ていただけて非常に感謝しております。手に取りやすい小物を中心としたオススメ商品に関する記事ですので良ければこちらもご覧ください。
端的な結論
手っ取り早く申し上げますと以下の通りです。
「PFCフリーのGORE-TEXは性能が低下している」
これに尽きます。
フッ素についてのいろいろ

フッ素の構造
まず、フッ素と言っても元素としてのフッ素単体のことを示しているわけではありません。一般的に言われるフッ素とは「フッ素化合物」全般のことを指しており、その細かい種類は1万を超えると言われています。
このフッ素化合物の中でも人工的に生成された「有機フッ素化合物(PFAS)」はその結合の安定性から自然環境中ではほぼ分解せず、様々な外的要因に対して強い耐性を持つためありとあらゆる分野で使用されて来ました。
より身近なところで言えばフライパンのテフロン加工がその一例です。
フッ素の問題点と対応
しかしこの有機フッ素化合物には大きな二つの問題点があります。
一つは人体に有害である点、もう一つは環境に有害である点です。特に環境に有害であるという点はお気持ちレベルの問題でなく、自然界に存在しない物質である上に容易に分解されないことから生物濃縮が発生し最終的に人体に有害となります。
このような問題点を受けて2000年以降、国連の関連条約により製造と使用の制限が段階的に行われて来ました。この規制による有機フッ素化合物制限を受けて、あるいは自主的に各ブランドやメーカーは撥水剤や防水透湿フィルムのフッ素フリー化を進めて来ました。
アウトドア業界においては2025年の秋冬シーズンから市場に投入されるGORE-TEX製品の「すべて」がPFCフリー、つまり有機フッ素化合物を使用しないGORE-TEXメンブレンを使用した製品となっています。
PFCフリー(ePE)による影響

こうして脱フッ素化された製品が新規投入の全てを占める環境となったわけですが、これによりどのような影響があるのでしょうか?
GORE-TEXブランドや各ブランド、関連メディアでは「これまで通りの性能は期待できる」と言っていますが、この表現には重大な語弊が含まれています。それは「従来(ePTFE)のメンブレン比で性能は劣っている」という点です。
各社がいう「これまで通りの性能」というのは「防水性と透湿性に関する基準をクリアしている」というレベルの話でしかなく、物質的構造上の問題で「撥水性と撥油性には劣る」というのが事実です。
その上で撥水性と撥油性が劣れば当然、雨水や皮脂が生地に付着しやすくなり効果的に防水透湿効果を維持することが難しくなります。つまり「防水透湿性の低下が起こりやすい」というのもそれに伴って得られる事実です。
メディア各社や各ブランドがステークホルダーとしてGORE-TEXの評価を下げるようなことを気軽に話せないのは分かりますが、性能が低下している(しかも誤差のレベルではない)のにも関わらずまるで全く同機能が維持されているかのような表現ばかりしていることには不信感が拭えません。
撥水剤の劣化
内部のメンブレンに有機フッ素化合物が使われなくなるのより前から、表地などに使用される撥水剤もその多くがフッ素フリーとなりました。mont-bell製品でいえば21FWシーズンから全ての防水スプレー・つけ込み液がフッ素フリーとなりました。
最近のレインウェアは水が染みやすいというのはあながち間違いではなく、そもそも表地の撥水効果をもたらす撥水剤の性能が低下しているのでこれまで以上にそのような体験を得やすくなったわけです。
より詳しい内容

より詳細なフッ素に関する情報はこちらの記事の方が明るいので、フッ素による撥水構造などについて深く知りたい方はこちらを参照すると良いかもしれません。
性能比較
なぜmont-bell?

どうしてmont-bellに着目するの?と思われる方がいらっしゃるかもしれません。
これは非常に単純な話で、それは「性能を(断片的にだが)定量的に明示しているから」、そして「同社規格内で比較できるから」の2点です。
多くのブランド(ゴア社も含め)は自社製品の具体的な防水透湿性能を公開していない場合が多く、なおさら製品毎の数値の違いが明記されていることは稀です。その点、mont-bellは抜けがあるにせよかなり正直に数値を掲載してくれているので比較しやすいというわけです。
実際の比較
それではWebサイトから情報を引用してきて比較してみましょう。単位等は省略、試験法はWebサイト記載の通りJIS L-1099B-1法です。
主要なモンベルのレインウェアを列挙するとこんな感じでしょうか。少し25SSにて商品名の再編があったので以下に記載しておきます。
- (旧)ストームクルーザー → テンペスト
- (旧)トレントフライヤー → ピークシェル
ストームクルーザーとトレントフライヤー(ePTFE GORE-TEX)はそれぞれテンペストとピークシェル(ePE GORE-TEX)に名前を変えてGORE-TEXを使用したモデルとして販売されています。現行名でのストームクルーザーとトレントフライヤーはSUPER DRYTECを使用したほぼ新規モデルといって差し支えありません。
| 製品名 | 品番 | 防水透湿素材 | 耐水圧 | 透湿性 |
| (現)ストームクルーザー | 1128733 | SUPER DRYTEC | 20000以上 | 40000 |
| (旧)ストームクルーザー | 1128615 | GORE-TEX(ePTFE) | 50000以上 | 35000 |
| テンペスト | 1128712 | GORE-TEX(ePE) | 20000以上 | 20000 |
| (現)トレントフライヤー | 1128741 | SUPER DRYTEC | 20000以上 | 50000 |
| (旧)トレントフライヤー | 1128633 | GORE-TEX(ePTFE) | 50000以上 | 44000 |
| ピークシェル | 1128731 | GORE-TEX(ePE) | 20000以上 | 20000 |
| ピークドライシェル | 1128632 | GORE-TEX SHAKEDRY | 理論上保水しない | 80000 |
こうして比較してみるとPFCフリーとなった現行のGORE-TEX製品(赤文字)を旧品(青文字)と比べてみると透湿性の数値に関して大きな低下が見られることがわかります。
PFCフリーになる前となった後で表地の違いはあるので単に優劣を比較することは難しい上にあくまで公表されている耐水圧と透湿性は参考値ではありますが、PFCフリーのGORE-TEXが性能で劣る場合があることは見ていただければわかるかと思います。
そもそも性能を低く見せる合理的理由はあまり考えつきません。自社製品が売れるようにとも考えられますが、GORE-TEXを使った製品の方が単価は高いのでなんともですね。
蛇足①

mont-bellの現行ストームクルーザーとテンペストを比べてみると一目瞭然な通り、製品化されたモンベルのレインウェアの性能ではPFCフリーGORE-TEXよりもSUPER DRYTECの方が勝ります。
メンブレン単体の性能はともかく既製品として優れているのはストームクルーザーとなるので、今mont-bellでGORE-TEX製品を買う実用上の意味は全くありません。強いて言えばブランドバリューや製品の質感でしょうか。
狙い目はアウトレットで残っている型落ちのストームクルーザーです。残り少ないようなのでお早めに。
蛇足②

こっそり表の一番下の列にGORE-TEX SHAKEDRYを採用した製品の防水透湿性についても記載しておきました。SHAKEDRYは有機フッ素化合物を使用したGORE-TEXの記事を表面にし、通常表面となるナイロン記事を完全に廃したタイプの製品です。
その特筆すべき性能として、GORE-TEXメンブレンが保水しないことに由来する「恒久的な耐水・撥水性」があること。通常のナイロンの表地は撥水効果の低下という概念がありますが、こちらにはありません。「ぼくのかんがえたさいつよのあまぐ」が完成というわけです。
レザーのような少し光沢のある表面、代償として耐久性が著しく低いですがそれを補ってあまりある高い耐水性と透湿性には目を見張るものがあります。
消費者はどうすれば良いか
PFCフリー(ePE)の実態
数値による比較、そしてフッ素関連の情報から分かるPFCフリーGORE-TEXに関する認識をまとめるとこのようになります。
この2点が重要。もしアウトドア用品点の店頭で「性能に変わりはないですよ」という案内を受けた場合は、その店員が単純に無知か発言の前提に「ある基準(耐水圧20000mg程度)に基けば」という意図が含まれています。
どちらにせよ、有機フッ素化合物の不使用による性能の低下は疑いようのない事実です。ステークホルダーの皆さんは当然そんなこと大っぴらには言えないので注意しておきましょう。
消費者ができること
現行品は全て脱フッ素、アウトレットを狙おう!

先に申し上げた通り、25FWシーズンから市場に出回る全ての現行製品は脱フッ素したものです。中古品などを漁らない限りePTFEのものは存在しないと思っていただいて構いません。
しかしまだ希望はあります。それはいわゆる「アウトレット製品」です。25SSより前の製品であれば一部PFCフリーではないGORE-TEXを使用した製品が継続して販売されています。
例えばmont-bellのストームクルーザーもアウトレット品(品番1128615)は第9世代のモデルなのでPFCフリーとなる前のGORE-TEXを使用しています。当然、再生産はもうないので今ある商品限り。型落ちで上代も落ちてるので余裕がある方は買い溜めをオススメします。
こまめな洗濯をしよう!
これは以前からずっと呼びかけていることではあるのですが、レインウェアの機能を適切に維持するためには「適切な洗浄」が必要です。要するに洗濯してくださいってことです。
時々、防水透湿性素材を使用したジャケットは洗えないというデマを散見しますが、全く逆で洗濯しないと機能は低下する一方です。特にPFCフリーとなってからは、撥油性が低下したことでさらに使用による性能の低下を引き起こしやすくなっています。
こまめな選択により普段の着用で付着した皮脂を落とし、つけ込み剤ないしスプレーを用いて撥水性を回復させることでより効果的にレインウェアの性能を引き出すことができるでしょう。
洗濯しましょう、マジで。
そもそも蒸れない雨具はない

製品の性能の低下以前の問題として、レインウェアの透湿性は人間の発汗により発生する水蒸気を全て被服気候の外へ逃すことはできません。巷でよく目にする値の測定方法はかなり現実離れした環境における実験上の参考値でしかないからです。
特に私のような発汗の多い人、運動強度が高い人はどんなレインウェアを着用したとしてもどうせ蒸れて濡れてしまいます。そうでなくとも着用法が間違っていれば隙間から雨水が侵入することも多々あるでしょう。トムラウシ遭難事故で生死を分けたのも着用法の正誤と言われているくらいです。
それを踏まえて、正しいレインウェアの着用方法を習得し、行動後に濡れていない衣服・タオルを用意して着替える準備をしておくことが賢明です。
おわりに

今回はちょっと刺激的な内容の記事を書きました。
有機フッ素化合物を使わないことは人体や環境への有害性があることから仕方がないことですが、それによりレインウェアの性能が下がっている事も同時に注意しなければいけません。
個人的には馬鹿正直に性能低下を主張して、人体や環境に対する有害性への道義的配慮の重要性とその社会的意義を主張された方がはるかに納得できるのですが…まあ、無理ですよねぇ。
ほぼ不可逆な取り組みなので今後は消費者として新しくできることはありません。せいぜい、性能の低下を受け入れこまめに洗濯して最大限機能が発揮できるようにすることくらいです。
と、いう感じで今回はこの辺で。ご覧いただきありがとうございました。次回もお楽しみに。

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